イントロダクション

73歳、年金暮らし。
それはあまりにも突然の余命宣告・・・。
自分の<お葬式計画>に奮闘する
エレーナの笑って泣ける
やさしさに包まれる物語!!

 世界一の超高齢化社会に向かって突き進む現代の日本では、すっかり浸透した感がある“終活”という言葉。誰しも逃れられない死という現実をネガティブに捉えるのではなく、自分らしい最期を迎えるために葬儀や遺言の準備、身のまわりの生前整理をするこの行いは、『死ぬまでにしたい10のこと』(02)、『エンディングノート』(11)、『母の身終い』(12)、『92歳のパリジェンヌ』(15)といった国内外の話題作のテーマになり、人生という長く険しい旅を前向きに見つめ直す機会を観客に提供してきた。
 ロシアののどかな片田舎の村から届いた『私のちいさなお葬式』も、そんな“終活映画”の系譜に連なるヒューマン・ドラマ。しかも尊厳死などの物議を醸す問題を扱ったシリアスな社会派映画ではなく、このうえなく元気でチャーミングな老婦人の予想もできない一挙一動が、観る者の頬をふんわりと緩ませ、驚きと感動をもたらしてくれる珠玉作である。

「恋のバカンス」にのせて、ロシアの名女優が贈る母の愛にあらゆる世代の心が強く揺さぶられる。

 2017年のモスクワ国際映画祭にて観客賞を受賞した本作は、仕事人間の息子を思いやって自分のお葬式の準備を始める老婦人の物語。しかし文学をこよなく愛し、聡明で自立した主人公のエレーナにはまったく悲壮感がない。自らの足で軽やかに役所や遺体安置所に出向き、棺桶を台車に乗せて自宅に持ち帰ってくるその姿はユーモアとバイタリティに満ちあふれ、思わず目が点になってしまうほど。さらに気の置けない隣人との友情や元教え子たちとの交流、疎遠だった息子との情愛のドラマは、シニア層の深い共感を誘うとともに、あらゆる世代の観客の心をほっこりとさせるに違いない。エレーナが暮らす木造の家、可愛らしい小物や洋服も要チェックである。
 また、劇中ではザ・ピーナッツのヒットナンバー「恋のバカンス」のロシア語カバー・バージョンが印象的に使用されており、この曲はロシアで世代を超えて広く愛されているという。